
建物の逆打ちって聞いたことはあるけど何だろう
なぜわざわざそんなことをやるのだろう
逆打ち工法のメリットとデメリットを知りたい
今回は 大規模建築の逆打ち工法のメリット、デメリット についてお話します。
どうぞよろしくお願いします。
・逆打ち工法を未経験、また今度経験するが知識がない
・逆打ち工法のメリットとデメリットを知りたい
・逆打ち工法の注意ポイントを教えてほしい
【悩み】逆打ち工法に詳しくない

逆打ち工法という言葉は聞いたことはあるけど実際にどうやるのかは分からない
自分の受け持っている現場が逆打ち工法をするかどうかの検討をするときにどのような視点や問題点があるか知識や経験が無ければ分かりません。
私も3つくらいの逆打ち現場を経験してきましたが、結論としては逆打ちじゃなくてもよかったのでは?と思うような現場もありました。単純に机上の計画であれば逆打ちは現場を2倍速く進める素晴らしい工法ではあります。
しかし、実際は色々な問題があり、計画通りにならないことも多々あります。
実際に自分の現場で逆打ち工法をやるとなったときにどんな工法なのか?どんなメリット・デメリットがあるのか?注意点は何なのか?が分かっていると施工管理もやりやすいですよね。
逆打ち工法の施工手順とパターン
まず初めに逆打ち工法って何?ということから始めます。
逆打ち工法は建物の1F部分の床を先行で作り、地上と地下の構造物を同時に作ってしまおうという工法です。
1,構芯柱・SMWを打つ
2,掘削をする
3,1Fの床を作る
4,地上と地下の構造体を作る
とこのような順番で行うのが一般的ではありますが「逆打ち」には2つのパターンがあります。
「1Fの床を作る分のみ掘削するパターン」と「全ての掘削を終わらせてしまうパターン」です。
どちらも「逆打ち工法」で間違いありません。
よく行うのが「1Fの床を作る分のみ掘削するパターン」です。
そもそも逆打ち工法を採用する大きな理由は「工期短縮」です。
1Fの床の躯体を作ることで地上と地下を同時に工事が出来る事が利点ですので「全ての掘削を終わらせてしまうパターン」では掘削中の時に地上の構造物を作ることが出来ません。現場の規模にもよりますが数か月の違いは出るでしょう。
と、逆打ち工法の手順とパターンの紹介でした。
次は逆打ち工法のメリットとデメリットを説明します。
逆打ち工法のメリットとデメリット
では逆打ち工法のメリットとデメリットですが以下の通りです。
・工期を短縮できる
・工期を短縮した分、ランニングコスト(維持費)を抑えることが出来る
・土圧を軽減できる
・工程が短縮する分、短い期間で計画する量が増える。
・地上と地下を同時に進めるので両立する計画を立てる必要がある。
・工種毎の歩掛かりは下がる
・作業員の人数が単純に2倍になるので環境整備が大変
・1Fが戦場になる
となります。
理由を説明します。
逆打ち工法のメリット
逆打ち工法を採用する最大のメリットと言えば工期短縮です。
工期を短縮できない逆打ち工法なんて無駄です。
通常であれば2年かかる工期を1年半とかで出来るとか言ってしまうのが逆打ち工法の強いところ。
個人的に言わせてもらえば逆打ち工法なんぞ、「速い」「やりずらい」「忙しい」の3拍子でやめてくれと思いますが、施主からすれば半年も早くなるなら採用!!ってなります。
また、逆打ちを出来る力量がある会社は日本でも限られています。
会社として同業者より自分のところに仕事を受注するために、「工期短縮を出来ます!!」と言えるのは大きすぎる強みです。
逆打ち工法で工期を短縮した場合の恩恵は他にもあります。
それはランニングコスト(維持費)を抑えることです。
現場には資機材リース費があります。同じ資機材を2年借りるのと1年半借りるのでは半年分リース費が違います。現場の資材だけではありません。事務所の賃貸や備品、電気代や水道代の基本料金、我々現場監督の費用も同様です。あるだけで、いるだけでお金がかかる物はたくさんあります。
工期を短縮することでランニングコスト(維持費)が安くなるというのも逆打ち工法の利点ではあります。
逆打ち工法は1Fの床躯体を先行して作ります。順打ちは掘削しながら切梁を取付けますが、逆打ちは1Fの躯体が切梁替わりになるので切梁を少なくすることが出来ます。また、掘削中も土圧の頭を躯体で抑えているので土圧の変化が起こりずらいのも特徴です。
土圧が強すぎるとSMWが崩壊します。※実際はそうならないように計算されていますけど
外周部の土圧を躯体で抑えることができるのは、品質的にもとてもいいことです。
逆打ち工法のデメリット
工期が短くなることは良いことばかりではありません。2年かかる工事を1年半でやるということはその分計画する時間が短くなります。
現場監督は上下階の計画と管理を両方同時にしなくてはいけません。作業員に歩掛かりがあるように現場監督にも歩掛かりがあります。作業員の人数確保、工事の計画、管理を逆打ちに速度に合わせてやることになります。とても大変です。
早めに現場監督を含めた人数確保と早期計画が必須になります。
先ほど工期が短くなることによる問題を言いましたが、逆打ちは地上と地下の工事を両立させる必要があります。
この場合両方を計画できるほどの現場監督はいないので地上担当、地下担当と別れることが多いですが、それぞれの担当者はそれぞれの工事を進めるべく計画をします。そこで工程や使うエリアが重なり、工事がうまくいかないこともしばしばあります。どちらを優先ではなく、どちらもできるようにしなくてはいけませんがなかなかできないのも事実です。地上と地下の工事を同時に進めることを考える現場監督がいないと難しい工法です。
逆打ち工法は順打ち工法より工期は短いですが、工種毎の歩掛かりは下がります。理由は上下階を同時にやるため、資材ヤードが不足、重機が自由に使えない、投入開口が狭く資材が運びずらいなどがあります。資材がなければ仕事になりません。
体感ではありますが順打ちより歩掛かりは8~9割程度になるような感じです。
逆打ち工法は上下階の作業を同時に進めるため、作業員が2倍になります。作業員の増加により大変なことが環境整備です。詰所やトイレ現場の休憩所なども普通の2倍必要ということです。
特に地下や地上の広いスペースが確保できるまでは、どこを詰所にしようか悩みます。プレハブなども建てますがプレハブが建っている場所も工事範囲ですのでできるだけ小さく作りたいのが理想です。作業員が増えたから作業は早く進むと思いますが、現場監督が頭を悩ませることは増えます。
逆打ち工法は1Fが戦場になります。1Fを起点として搬入や資材ヤードの調整をするため、地上と地下の担当者による打ち合わせがうまくいきません。
私が地下担当していた時は1Fは大きな圧力により地上の資材であふれかえりました。という想定もしていたので地下に資材を早々に逃がすことを考えていましたので事なきを得ましたが現場によっては工事が破綻する可能性もあります。1Fにポンプ車が置けるチャンスがなく、10日くらい生コン打設をずらした時もありました。
そのくらい1Fをどう使うのかが焦点になります。特に融通の利かない担当者や責任者がいると現場全体としてはやばいです。せっかくの逆打ちで地上と地下両方を同時に進めるようにするのにどこかだけがわがままを言っては全体の工期短縮にはなりません。1Fはどう使うのかを所内でよく打ち合わせをする必要があります。
逆打ち工法をやってみて実際に思う注意点
順打ちと比べて逆打ち工法ならではの注意点があります。
せっかくなので一緒に覚えていってくれると嬉しいです。
・コンクリートは「圧入」をする
・1F先行床とB1F立ち上がりのつなぎ目にグラウト注入が必要
・地下はとにかく暗い
・投入開口部の床の耐荷重に気を付ける
経験ではありますが、このような注意点があります。
逆打ち工法はコンクリートを打設する際に圧入する場合があります。通常は型枠の上部から生コンを流し込み打設するものですが、逆打ちはすでに上部のコンクリートがあり、流し込みができません。なのでコンクリートを打設するために圧入を行います。
コンクリートを型枠上部からではなく、型枠側面に特殊器具を取り付けて側面から打設する方法。
注意点・・・通常の打設とは施工方法が異なる。圧入は生コンを打設する圧力が違います。通常であれば流し込みによる生コンの流れによる圧力が型枠にかかりますが、圧入口の場合は常に圧をかけてコンクリートを押し上げているので通常より型枠にかかる圧力が高くなります。そのためセパピッチを細かくしたり、サポートを増やしたり対応をします。
圧入によるコンクリート打設ですが、B1F立ち上がりと1F床の間にコンクリートの隙間が空きます。どれだけコンクリートを上手に打設しようとコンクリートの収縮により数mm~数cmの隙間は必ず空きます。それは品質的に問題ありなので「グラウト注入」を行います。
グラウト注入には事前に準備が必要で、1F床下にスチロールや注入管などを先行して施工しておく必要があります。コンクリート打設後にできないことはありませんが、非常に手間と時間が増えるためグラウト業者と早めに打ち合わせをしておきましょう。
1F先行床を作るせいで地下には自然採光は一部の開口からしか入りません。とにかく暗いです。仮設照明をしっかり設置しないと作業することだけではなく、歩くことすらままなりません。掘削中に仮設照明を切梁などにつけていかないと

とにかく暗くて仕事にならない!!
なんてことになります。
地下の搬入ですが1F床のコンクリートをほぼほぼ打設してしまっているので、搬入口は数か所しかありません。鉄筋などを10t車で持ってきたときに、荷下ろし場所が10t耐えられない床だと全部載せられません。とはいえ仮設であれ本設床であれ、耐荷重はせいぜい2~3t程度です。10t全部を乗っけることはできません。ではどうするかというと
・1Fに仮置き場を作る。
・鉄骨などの強度の高い部分に荷重をかける工夫をする。
・搬入したものは即座に水平移動をする。
ことが有効です。搬入開口部に面積すべておいておけるわけではないので気をつけましょう。
まとめ
逆打ち工法は大規模かつ工期がない現場に使われるため、東京などの大都市でないとなかなかお目にかかれない工法ではあります。いざ逆打ち工法をやるとなった時に即戦力になれるよう普段からの現場監督の知識や知恵を蓄えておきましょう。
今日も一日お疲れ様です。
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